1992年バルセロナ大会での男子バスケットボールの“ドリームチーム”や2020東京大会での男子野球の”侍ジャパン”など、オリンピックが事実上プロアスリートらの参加を認めるようになって以降、アマチュアの祭典だったオリンピックは、各競技ごとに世界ナンバー1の座を競い合う、アスリートたちの夢舞台となり、オリンピックへの注目度は益々熱を帯びるようになりました。
2021年に開催された2020東京大会のゴルフ競技では、男子日本代表だった松山英樹選手が銅メダル決定戦であるプレーオフに進出、同じく女子日本代表だった稲見萌寧選手が2位タイでのプレーオフに勝利し銀メダルとなるなど、母国開催とはいえ、日本人選手の実力を世界中のゴルフファンに知らしめました。あの熱戦が今度はフランスで開催される2024パリオリンピックで繰り広げられます。出身国のプライドをかけ、世界のトッププレーヤー達が予選カットなしのストロークプレーで争う4日間、2024パリオリンピックでのゴルフ競技の概要と注目のメダル候補を予想してみましょう。
2024パリオリンピックゴルフ競技の見どころ
この投稿をInstagramで見る
2024パリオリンピックのゴルフ競技は、フランスのパリ郊外にある高級コース「ル・ナショナルゴルフクラブ」を舞台に、男子が8月1日~4日、女子が8月5日~10日に開催されます。
競技は、4日間にわたり18ホールを4ラウンド、計72ホールを回り、その打数を競い合うストロークプレー形式で行われます。国別の団体戦などは実施されないのは前回大会同様です。出場できるのは各国2名を上限とした、男女各60名で、その選考基準は世界ゴルフランキングをもとに算出されたオリンピックゴルフランキングに基づき決定されました。
男子は、前回2020東京オリンピックで7名にも及ぶプレーオフで惜しくも破れた松山英樹選手が今回も出場することが決定。もう一名は昨年の国内男子ツアー賞金王の中島啓太選手が狭き門の出場枠を獲得しました。
女子は、2度目の全米女子オープン制覇の偉業を成し遂げた笹生優花選手に、米国女子ツアーでのメジャー優勝にあと一歩まで迫った山下美夢有選手。選考レース終盤で好成績を挙げた勝負強さを持つ二人だけにかなり期待できそうです。
会場のル・ゴルフ・ナショナルとは?
パリオリンピックのゴルフ競技の開催コースは、フランスのパリ近郊、ヴェルサイユ宮殿にほど近いチャンピオンシップコースであるル・ゴルフ・ナショナルです。1990年に開場し、英国リンクスコースを思わせるエーグル・コースと、ウォーターハザードが多く設けられた戦略的なアルバトロス・ゴルフコース(7,331ヤード・Par72)と、練習用のスクールコース(9ホール)があり、パリオリンピックのゴルフ競技では、アルバトロスコースが舞台となります。
アルバトロスコースはヨーロッパでは最高のチャンピオンシップ・コースとして知られており、1991年から欧州ツアーで高額賞金で知られる全仏オープンが毎年開催され、2018年には米国と欧州のチーム対抗戦ライダーカップの舞台ともなりました。ヨーロッパ・ツアー・カレンダーの重要なステップとなっているこのゴルフコースは、リンクスの伝統的な雰囲気とターゲット・ゴルフの近代的な特徴を兼ね備えており、滑りやすいグリーン、広大な起伏のあるフェアウェイ、無数のリンクス風バンカーが備えられ、バッグの中のすべてのクラブを使う必要に迫られます。
ウォーターハザードに囲まれた壮観な最終4ホールは、2018年ライダーカップのドラマの最終幕が演じられたメモリアルなホール群です。ちなみにル・ゴルフ・ナショナルは、日本の「太平洋クラブ」と提携しており、太平洋クラブ会員は現地で会員1名につき最大3名まで同伴ゲストでのプレーが可能となっています。オリンピック会場となった舞台でいつかはラウンドしたいと思う方には魅力的かもしれません。
2024パリオリンピック金メダル候補を大予想!
ここからは、2024パリオリンピックで活躍が期待される各国代表を男女別でご紹介します。
【男子】2024パリオリンピック金メダル候補
スコッティ・シェフラー
この投稿をInstagramで見る
2022年マスターズでメジャー初制覇。2024年シーズンは二度目のマスターズ制覇を含めすでに通算6勝を挙げるなど、圧倒的な強さを見せつけている現世界ランク1位のシェフラー。ドライバーの平均飛距離はそこそこですが、高いフェアウェイキープ率やパーオン率で、爆発力と安定感を兼ね備えたショットメーカーです。オリンピック代表選考でも世界ランク1位のアドバンテージでオリンピックランキングでの一位を守り抜き、熾烈なアメリカ代表の座を危なげなく獲得しました。文句なしに金メダル候補筆頭といえるでしょう。**
スコッティ・シェフラーの選手情報
生年月日 | 1996/06/21 |
プロ転向 | 2018年 |
出身地 | アメリカ・ニュージャージー州 |
身長/体重 | 190cm/91kg |
通算勝利 | 米国 12勝 (海外メジャー 2勝) |
オリンピックゴルフランキング | 1位 |
ロリー・マキロイ
この投稿をInstagramで見る
2011年の「全米オープン」でメジャー初制覇を果たし、2012年には「全米プロゴルフ選手権」、2014年には「全英オープン」を制すなど4大メジャーで勝利するキャリアグランドスラム達成にリーチをかけているロリー。近年では、欧州ツアーと米ツアーでコンスタントに優勝を挙げるなど、ビッグタイトルにも平場のトーナメントにも強さをみせ、常に世界ランクベスト5に名を連ねています。ゴルフ競技の開催コースであるル・ゴルフ・ナショナルでは、2018年ライダーカップで欧州チームの主力として戦い、欧州チームの勝利に貢献した相性の良いコースでもあります。本場のリンクスを思わせる荒涼とした設計のルゴルフナショナルだけに、リンクスコースの本場で腕を磨いた彼にとっては有利に働くかもしれません。
ロリー・マキロイの選手情報
生年月日 | 1989/05/04 |
プロ転向 | 2007年 |
出身地 | 北アイルランド |
身長/体重 | 178cm/73kg |
通算勝利 | 米国 23勝 (海外メジャー 4勝) 、その他 9勝 |
オリンピックゴルフランキング | 2位 |
ザンダー・シャウフェレ
前回大会2020東京オリンピックでのゴルフ競技で金メダルに輝いたオリンピアン、ザンダー・シャウフェレ。2024年シーズンも安定したショットを武器に善戦するも、タイトルまであと一歩届かず、な彼らしい(!?)プレーで合計11回ものトップ10入りを果たしていましたが、「全米プロゴルフ選手権」で念願のメジャー覇者となるなど、いよいよ勢いが増しそうな予感です。日本育ちの台湾人の母親をもつ親日家で、今季からツアーでは「デサントゴルフ」のウェアを着て戦っているなど、米国代表ながら応援したくなってしまう選手のひとりです。
ザンダー・シャウフェレの選手情報
生年月日 | 1993/10/25 |
プロ転向 | 2015年 |
出身地 | アメリカ・カリフォルニア州 |
身長/体重 | 178cm/79kg |
通算勝利 | 米国 8勝 |
オリンピックゴルフランキング | 3位 |
ウィンダム・クラーク
この投稿をInstagramで見る
米国下部ツアーで腕を磨き、18年からPGAツアーが主戦場。昨年5月に米ツアー初優勝を果たすと、6月にロサンゼルス・カントリークラブで開催された「全米オープン」でロリー・マキロイらをかわしメジャーを初制覇。今年2月のペブルビーチ・ゴルフリンクスで開催された「AT&Tペブルビーチ・プロアマ」でコースレコードの60をマークし優勝、3月には「アーノルド・パーマー招待」と「ザ・プレーヤーズ選手権」で連続で準優勝を挙げるなど、この1~2年で飛躍的な活躍をみせ、世界一過酷なオリンピック・ゴルフ競技における米国代表の座をもぎとりました。
ウィンダム・クラークの選手情報
生年月日 | 1993/12/09 |
プロ転向 | 2017年 |
出身地 | アメリカ・コロラド州 |
身長/体重 | 183cm/79kg |
通算勝利 | 米国 3勝 (海外メジャー 1勝) |
オリンピックゴルフランキング | 5位 |
松山英樹
13年にプロへ転向して以降、日本人のPGAツアー記録を次々に塗り替え21年には「マスターズ・トーナメント」で日本人男子初の4大メジャー制覇を果たした日本ゴルフ界の至宝。母国開催だった2020東京オリンピックでは、銅メダルをかけた7名によるプレーオフで破れ、メダルを逃してしまったものの、2024年シーズンはツアー通算9勝目を挙げるなど好調さをキープしており、オリンピックでの優勝も十分にあるでしょう。**
松山英樹の選手情報
生年月日 | 1992/02/25 |
プロ転向 | 2013年 |
出身地 | 日本 |
身長/体重 | 181cm/89.8kg |
通算勝利 | 日本 8勝 (国内メジャー 1勝) 米国 9勝 (海外メジャー 1勝) |
オリンピックゴルフランキング | 9位 |
トミー・フリートウッド
この投稿をInstagramで見る
欧州ツアーを主戦場とする、長髪とあごひげがセクシーな選手は、2017年の欧州ツアー年間王者に輝いた実力者です。フェアウェイキープ率の高さなどショットの安定感が強味で、ルゴルフナショナルで開催された2018年ライダーカップでは、フランチェスコ・モリナリと組み、敵無しの無双ぶりをみせつけました。オリンピックには2020東京大会に続き、英国代表として2回目の出場。ツアー年間王者となった2017年にはフランスのナショナルオープンだった「HNAフランスオープン」で優勝を挙げるなど、フランスのコースとも相性が良い上、今大会の開催コースがリンクスを思わせる雰囲気であることから、リンクスコースの母国ともいうべきイングランド出身の選手だけに、優位に働くかもしれません。
トミー・フリートウッドの選手情報
生年月日 | 1991/01/19 |
プロ転向 | 2010年 |
出身地 | イングランド |
身長/体重 | 180cm/76kg |
通算勝利 | 欧州7勝 |
オリンピックゴルフランキング | 10位 |
【女子】2024パリオリンピック金メダル候補
ネリー・コルダ
この投稿をInstagramで見る
姉でプロゴルファーのジェシカと共に姉妹で出場した2020東京オリンピックで見事金メダルに輝いたことが記憶に新しい、世界ランキング1位のネリー・コルダ。2013年「全米女子オープン」に14歳で出場を果たすなど、ジュニア時代から将来を嘱望された選手です。2021年「全米女子オープン」で初めてメジャータイトルを獲得したことで、世界ランク1位となって以降勝利を重ね、2024年はここまで5試合連続優勝を含む6勝を挙げる破竹の勢いです。直近のメジャー大会では予選落ちを喫していますが、今季の調子やこれまでの実績からも金メダル候補筆頭と言って間違いないでしょう。
ネリー・コルダの選手情報
生年月日 | 1998/07/28 |
プロ転向 | 2016年 |
出身地 | アメリカ・フロリダ州 |
身長 | 177cm |
通算勝利 | 米国 14勝(海外メジャー2勝)、欧州9勝 |
オリンピックゴルフランキング | 1位 |
リリア・ヴ
この投稿をInstagramで見る
名門UCLAでアマチュア選手としてのキャリアを積み2019年にプロ転向。2023年に「シェブロン選手権」と「AIG女子オープン(全英オープン)」の二つのメジャーを含む4勝を挙げ、世界ランキング1位にもなりました。今季は4月のシーズン途中に怪我で休養、復帰戦となった6月の「マイヤーLPGAクラシック」を優勝で飾り、続く「KPMG全米女子プロゴルフ選手権」でも2位となるなど、大会に向けて調子を上げてきています。
リリア・ヴの選手情報
生年月日 | 1997/10/14 |
プロ転向 | 2018年 |
出身地 | アメリカ・カリフォルニア州 |
身長 | 165cm |
通算勝利 | 米国 5勝(海外メジャー2勝) |
オリンピックゴルフランキング | 2位 |
コ・ジンヨン
この投稿をInstagramで見る
2014年から韓国女子ツアーに参戦し活躍。2017年にLPGAツアー「KEBヒナバンク選手権」で初優勝しツアーカードを獲得。翌年LPGAツアーメンバーとして初出場で初優勝の快挙を成し遂げてからは、アジアのみならず、世界ランクベスト5常連の、世界を代表するトッププレーヤーとして頭角をあらわします。2019年、2020年にかけて2年連続賞金女王となり、21年にも5勝を挙げて3年連続で賞金女王となりました。前回2020東京オリンピックのゴルフ競技では、金メダルを期待されながら9位タイの成績で終わっていますが、さらに安定さを増したパッティングと勝負強さで、前回のリベンジを果たすのではないでしょうか。
コ・ジンヨンの選手情報
生年月日 | 1995/07/07 |
プロ転向 | 2013年 |
出身地 | 韓国 |
身長 | 170cm |
通算勝利 | 米国 15勝(海外メジャー2勝) |
オリンピックゴルフランキング | 3位 |
リディア・コー
この投稿をInstagramで見る
韓国生まれでニュージーランド国籍のリディア・コーは、2012年に当時の米女子ツアー史上、最年少優勝記録を塗りかえ、2013年にプロ転向。14年には3勝し、ルーキー・オブ・ザ・イヤーに輝き、15年にメジャー最年少優勝を樹立するなど、米ツアー通算20勝を挙げています。過去2回出場したオリンピックでのゴルフ競技でも、それぞれ銀メダル、銅メダルという結果だっただけに、本大会も表彰台のてっぺん、金メダルに手が届く活躍が期待されます。
リディア・コーの選手情報
生年月日 | 1997/04/24 |
プロ転向 | 2013 |
出身地 | ニュージーランド |
身長 | 167cm |
通算勝利 | 米国 20勝(海外メジャー2勝) |
オリンピックゴルフランキング | 16位 |
笹生優花
この投稿をInstagramで見る
日本人の父とフィリピン人の母をもつ笹生選手は、アマチュア時代にフィリピン女子ツアーで優勝を飾った後、2019年に日本国内女子ツアーのプロテストに合格。翌20年に早くもツアー初優勝を飾り、21年には「全米女子オープン」でも勝利。メジャー初優勝を成し遂げ、日本国籍登録選手として史上3人目の女子メジャー覇者となりました。同年開催の2020東京オリンピックでは、フィリピン代表として出場しました(結果は9位)が、その後日本国籍を選択します。日本代表として出場を目指した2024パリオリンピックは、2024年に開催された全米女子オープンを再び制したことで、女子ゴルフ界最大の賞金と共に、日本代表の座を確実なものにしました。前回大会に続き、上位入賞が見込まれる選手の一人でしょう。
笹生優花の選手情報
生年月日 | 2001/06/20 |
プロ転向 | 2020年 |
出身地 | フィリピン |
身長/体重 | 166cm/63kg |
通算勝利 | 日本2勝、米国 2勝(海外メジャー2勝) |
オリンピックゴルフランキング | 10位 |
山下美夢有
2022年、2023年の国内女子ツアーの年間女王に輝いた山下選手は、2020東京オリンピックでのゴルフ競技では稲見萌寧選手らとの出場枠競争に破れ、オリンピック出場を逃した苦い経験がありました。念願の初出場をかけた2024パリオリンピックでは、畑岡奈紗、笹生優花、古江彩佳らと代表選考はさらなる激戦となりましたが、選考のラストチャンスだった米国女子メジャー「KPMG全米女子プロ」で総合2位につけ、大逆転でパリオリンピック出場を決めました。平均ストローク60台を2年連続達成するショットの安定感と国内女子ツアー最小レベルの平均パット数、念願のオリンピック出場にかける思い、海外のトーナメントでも気後れしない強メンタルで上位進出を狙うポテンシャルは十分でしょう。
山下美夢有の選手情報
生年月日 | 2001/08/02 |
プロ転向 | 2020年 |
出身地 | 日本 |
身長/体重 | 150cm/54kg |
通算勝利 | 日本11勝(国内メジャー3勝) |
オリンピックゴルフランキング | 17位 |
まとめ
日本人ゴルファーに馴染みの薄いフランスで開催されることや、国別で選ばれた代表による戦いというオリンピックであること。出場選手が日本ゴルフ史に残るであろう伝説的プレーヤーの松山英樹に、海外を舞台にすでに好成績を挙げている笹生と山下という同世代の両名という、最強布陣で世界に挑むパリオリンピックでのゴルフ競技は、ゴルファーにとってメダルの期待感も含めて見逃せないものになるでしょう。